2021.08.24 3rd EP “Jargon” on FLAKE SOUNDS
Lobby feat. valknee Music Video Directed by Akihiko Taniguchi
01. Lobby feat. valknee
02. Godot
03. Green
04. Orange
05. Kuba (Special Thanks to Go Kurosawa/ Kikagaku Moyo)
06. Sniffin
Credit
Vo.JC Ba.Naoto Sekijima Key. Kensaku Egashira Harp.Yuko Uesu
Support Dr. & Perc. Masamichi Kubota
Guest: Track01 valknee, Track05 Trp. Go Kurosawa (Kikagaku Moyo)
Recording&Mixing by Yui Kimijima (Tsubame Studio) Mastering by Pete Maher
Title logo design by Taiki Okuyama
FLAKE独占特典は120mm x 40mmの蓄光ステッカー(夜に光るやつ!!!)&ロゴ刺繍バッジ(立体感モコモコしてて可愛い)https://twitter.com/DAWA_FLAKE/status/1430409420354199557?s=20
Release Info
Artist / んoon
Title / Jargon
発売日2021年8月25日
¥1819(税抜き)/¥2000(税込)
CD (FLAKES-252)
Label / FLAKE SOUNDS
JAN 4571207712523
You can find them at: Tower Records, Amazon,Disk Union, HMV and more.
Jargonとわたし
Ba.積島直人
気がついたら前作より2年以上経っていた。
一旦、世相とか時勢の色々はおいといて、んoon界隈では相も変わらず言語ゲーム的なやりとりが続いていた。
「言葉が通じるのに話が通じない」(by藤子・F・不二雄短編集『ミノタウロスの皿』より)
という奇妙なもどかしさと、メンバー間の話の確認や説明責任の放棄は、前作から2年経った今もんoonを結えるメインのコミュニケーション装置である。
つくづく進歩とか成長とかに縁がないバンドだなと思う反面、「10年経っても何もできない、いつまでも何もできない」というフィッシュマンズの言葉は、文字面は変わらないままに、新たな発見の触媒として、自分に呪詛のように生き続けている。
何が言いたいかというと、今作『Jargon』は前進と後退といった進歩史観的なものではなく、右往左往の横の振幅、全振りの幅が以前より格段に拡がった作品いうことである。
GodotやGreenなど、数年前から地縛霊の様にふわふわと佇んでいた曲もあれば、LobbyやKubaなどギャハギャハみんなで爆笑しながら数分で固まった曲もある。
こういう時間の掛け方の不均衡を見ると、やはりバンドとして成長したのではなく、振り切れ具合とか感覚のぶっ壊れ具合の幅が増した結果だと強く思うのだ。今作は全体を通してJCはライブでの再現性をほとんど放棄した。音響彫刻のように声を重ねて倍音を構築している。映画「マルコビッチの穴」のジャケ写を思い出していただければその狂気ぷりもイメージしやすいだろう。
ゆうこは、(多分情熱大陸とかでYOSHIKIの回を見たからだろう)自分の演奏よりもトータルのミックスバランスや構成に積極的に口を出す様になった。特にエンジニアであるツバメスタジオ君島さんに。「注文が2点あります」といいながら、2点以上内包した注文をしているあたりに、彼女のプロ意識と、数の数え方の違いをまざまざと感じた。
えがしらは、「遊び」の部分が多くなった。
(補足すると、えがしらはリハとかセッションの時に遊びで何気なく弾くフレーズがヨダレがでるほど極上なのに、やれ曲が固まりつつあるといつの間にか弾かなくなるという妙な癖がある。他のメンバーが濃いからだろうけども、んoonの甘味の大部分はこの「遊び」なのだ。ちなみにバンド内では、えがしらはコードネーム"ジャコウネコ"と呼ばれていて、その由来は本人がうんこと思っていても、人間からすれば極上最高級のコーヒー豆であることに由来する。)
そして自分はといえばついにベースの音域と役割を完全に放棄することができた。(M6 Sniffin')
ベースラインはジャコウネコえがしらに託し、コードはハープに任せ、ひたすらにJCの声にまとわりつく虫の羽音のようにベースを弾いた。
ざっと上げればこんなとこであるが、このように私がベースの役割を、そして んoon全員が各自の役割を放棄すればするほどに、んoonは「バンド」ではなく、より広義の「音楽」として聴かれていくのではないかと思っている。
1. Lobby(feat. valknee)
この2年で、JCのITリテラシーが進み、以前はボイスメモで作成していたアカペラのデモはいつの間にやらリズムトラックがつくようになっていた。そんな折に少し気恥ずかしそうに持ってきたデモはブリトニー・スピアーズが並行宇宙で健全にキャリアを積みましたと言わんばかりのデモだった。JC以外の楽器隊は爆笑しながら楽器隊はノリノリで音を重ねていった。みんな普段使わないようなブリブリとした音を選び、ふざけすぎた恋のように狂乱が進んでいった。
「そうなるとラップだよね?」
と、誰ともなく言葉を発していた。どうなるとラップだったのかはよくわからないが、すでにJCは偽valknee風のフローを乗せてライムしていた。そしてそのままのテンションで直接面識がなかった本家valkneeにメールを送り、今回の曲は出来上がった。嘘のようなほんとの話である。
valkneeとはデモのトラックを数回交換し合いリリックを書いてもらった。こちらから特にイメージや指示などは出さず、valkneeの野生の思考をそのまま出してもらうことを心がけた。
事件が起こったのはレコーディング当日である。順調にvalkneeパートが録音されている中で、JCが語りとか喋りのパートが欲しいと言い始めた。(普段私には「喋りすぎ!」と言うのに。)
それを受け、valkneeは、
「ギャル中学生が学校生活の愚痴を言いながら、外国語表記のせいでエビであること以外がわからない料理を食すおじさんを時折憑依させ、建物に立て篭もりゾンビから切り抜け食料を得るために火を探すがアイコスしかない」という弛緩したイメージのコラージュを語りあげた。
当然我々は腹筋がちぎれるほど笑った。valkneeのラップも、彼女の語りも、JCのボーカルも、どれもイメージは共有しないままに、ただトラックの上で同直線上にある。そんなレコーディングのモニター画面を見た時になんとなく素敵な曲になるなという確信が生まれたのだった。
こうして完成した楽曲を今度は んoonのMVでお馴染みの映像作家谷口暁彦へと展開した。こちらもまた前作からさらに輪をかけて、見るものの言語中枢をフリーズさせるような出来栄えだった。
ひ、どうぶつ、たべもの、ばくはつ、まちはかい
(土井善晴先生のツイート風に)
2.Godot
まだJCが加入する前、ウエスユウコが全パートを打ち込んでデモを作ってきた。当時面白いなと思ったのは、ベースや他の楽器を弾けないウエスユウコがベースやドラム、キーボードのフレーズを一音一句指定してきたことだった。音の跳躍の仕方や区切り方などが著しくベースの手癖や感覚と合わない。なるほどハープに限らず別の楽器の奏者はこうやって自分とは違う身体知で音の世界を把握しているのかと思ったものである。かつて他者の視覚をカメラ経由でゴーグルに投影するという「視聴覚交換マシン」というアート作品があったが、なんとなくそれに近い。後日この体験から、自分もいくつかベースで作ったフレーズをハープで弾いてもらおうとしたが、やんわりと却下された。そんなすれ違いからこんな素晴らしい曲が生まれるのだから、これからも、んoonはすれ違う事をやめてはならない。
3.Green
電波を受信することに興味があった時期がJCにあり、それらしい言葉をJCと自分で暗喩直喩織り交ぜて当てはめて歌詞を作った。メンバーの各楽器の音色はなんとなく浮世離れしたようなものを象れればいいなというイメージがあった。特に後半部分、電波や電磁波を抽象化したようなシンセ音とそれに応答するかのようなJCの「叫び声」は遠く遠くにまで届きそうな直進性がある。楽曲を録り終え、メンバーが想像した情景を共有すると、それぞれ面白いくらい違うものだった。
「だよねー!わかるー!」という意味で「えー自分と全然違うわ!」という言葉が飛び交っていた。
4.Orange
2020年に色々と予定してたことがなくなり、その間にできた曲。色々と出来事、やりとりがありつつ、それをあまり直接的な言葉にしない(出来ない)のが んoonの特徴の一つなのだが、時間をおいて曲を聴くと、当時思っていたことがあまり立ち上がってこない。歌詞の「甘いキス」てなんだったっけなーなどと10年後もふんわり思い出してるんではなかろうか。ちなみにこの曲は特に江頭のスウィートニング職人としての仕事ぶりが発揮されていて、他の曲との振れ幅の広さの要因の一つとなっている。
5.Kuba
んoon史上一番長い曲となったこの曲は、ハープ、ベース、キーボードのパートが消失したものになった。経緯や要因は説明出来そうで出来ない。なんとなく色々意見を取り入れたらこうなっていた。いっぱい打楽器かな、あと管楽器かな、トランペットかな、幾何学模様のGoさんかな、と並べてみても意味がよくわからないが、タイミングとかご縁とかそういう概念で微笑ましく眺めていただきたい。ライブではバリバリ演奏していく所存です。
6.Sniffin'
キーボードがベースラインを弾き、ハープが存分に歌い、ベースがアホみたいに荒れ狂う振り切れた曲。Lobby製作時もそうなのだが、鳴らしてみて、みんなが爆笑する瞬間というのが昔からあって、この曲にもそれがあった。VOとコーラスはJCが全て重ねて作るのだが、快楽ドバドバで、死に際3分前まで鼻歌をしそうなのコーラスラインと、禁欲的な音飛びを繰り返すメロディラインの落差が非常に激しい。おそらく歌詞の有無に左右されているのだろうが、その倒錯が1人の声から全て構築されているところに妙な切なさを感じている。元ネタというべきか、タイトル自体は数年前から存在していた曲で今回まさかの急浮上でひとつの曲にまとめ上げられた。この曲に限らず、色んな没ネタが何かのタイミングでバチッとハマるようなことがこれからもあるといいなと思っている。